広島大学と他大学のエネルギー事情比較
脱炭素社会のモデルとなるキャンパスをつくる
大学は、所在する自治体の最大のエネルギー需要家であることも少なくありません。現状の広島大学の環境パフォーマンスはどのようなレベルなのか、他の国立大学と比較してみました。
大学は、数千人から数万人の学生・教職員が所属し、キャンパスは一つの街にも例えられます。将来を担う若者たちが学ぶ場所であり、良質なキャンパスを維持しながら、環境負荷をゼロに近づけていくことが大きな課題です。広島大学は、カーボンニュートラル✖️スマートキャンパス5.0宣言のもと、まさにこの課題に挑戦しています。
現状の広島大学の環境パフォーマンスはどのようなレベルなのでしょうか。2019年度について、山口大学、岡山大学、神戸大学、名古屋大学、北海道大学と比較してみました。北海道大学は気候が大きく異なりますが、2018年度に新電力事業者と契約しており、国立大学法人として特別な事例なので含めています1。
規模を見ると、広島大学、岡山大学、神戸大学はほぼ同じ規模で、山口大学はやや小さく、名古屋大学、北海道大学は大規模大学です。電力と各種燃料の消費量を合わせたエネルギー消費量(一次エネルギー消費量)を見ると、最小の山口大学が約52万ギガジュール(GJ)、最大の北海道大学が約170万ギガジュール(GJ)で、これは、一般家庭の1万6千~5万世帯分にものぼります2。しかも、エネルギー消費のうち電力が占める割合は7割~9割で、大学は、総じて電力の超大口需要家なのです。
規模
広島大学 | 山口大学 | 岡山大学 | 神戸大学 | 名古屋大学 | 北海道大学 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
規模 | 学生数 | 人 | 15,589 | 10,190 | 13,079 | 16,226 | 15,796 | 18,713 |
延床面積 | m2 | 584,665 | 380,540 | 460,883 | 485,594 | 738,548 | 775,877 |
エネルギー消費と二酸化炭素
広島大学 | 山口大学 | 岡山大学 | 神戸大学 | 名古屋大学 | 北海道大学 | 北海道大学2(※) | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
一次エネルギー消費量 | GJ | 863,496 | 517,559 | 804,574 | 819,028 | 1,549,806 | 1,722,338 | 1,684,416 |
電力の割合 | % | 86% | 81% | 80% | 81% | 89% | 69% | 69% |
※北海道大学2は2018年度のデータ(新電力事業者との契約年度)
規模が大きければエネルギー消費量も大きいので、公平に比較するため、一次エネルギー消費量および二酸化炭素排出量を延床面積で割った値で比較すると下図のようになります。延床面積あたりの一次エネルギー消費量を見ると、広島大学の環境パフォーマンスは山口大学についで2番目に良いものです。しかし、延床面積あたりの二酸化炭素排出量では、山口大学、神戸大学より悪くなり3番手に下がります。
一次エネルギー消費量および二酸化炭素排出量を延床面積で割った値の比較。北海道大学2は新電力事業者との契約時(2018年度)の値。
大学の電力依存度は7割~9割と高く、二酸化炭素排出量は契約している電力の二酸化炭素排出係数に左右されます。例えば、上のグラフで、北海道大学2(2018年度)の二酸化炭素排出量が、同大学の2019年度よりも大幅に低いのは、新電力事業者がよりグリーンな電力を調達していたこと、北海道胆振東部地震により電力消費量そのものが減少したことが原因です。また、原子力発電所が稼働している関西電力の二酸化炭素排出係数は他よりも低いため、関西電力と契約している神戸大学の二酸化炭素排出量も低く抑えられています(下表参照)。原子力発電は安全性だけでなく、二酸化炭素排出係数の評価方法にも種々の議論があります。使用する電力をできるだけ再生可能エネルギー起源のものに置き換えていくことが必要です。
広島大学 | 山口大学 | 岡山大学 | 神戸大学 | 名古屋大学 | 北海道大学 | 北海道大学2(※2) | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
二酸化炭素排出係数 | kg-CO2/kWh | 0.585 | 0.542,0.636(※1) | 0.352,0.618(※1) | 0.318 | 0.457 | 0.656,0.673(※1) | 0.511 |
- 1.数値が二つあるのは、キャンパスごとに契約した電気事業者が異なる、または年度途中で事業者が変更になったため。
- 2.北海道大学2は2018年度のデータ(新電力事業者との契約年度)
電力の環境配慮契約
使用する電力を低環境負荷のものに置き換える仕組みとして環境配慮契約法があります。2007年に環境配慮契約法に基づく基本方針が閣議決定され、その後、多くの国立大学法人で、環境負荷の低い電力を有利に扱う電力供給契約の入札が定着しました。比較した6大学では、広島大学以外は全て、このような入札による環境配慮契約を行っています3。
広島大学 | 山口大学 | 岡山大学 | 神戸大学 | 名古屋大学 | 北海道大学 | |
---|---|---|---|---|---|---|
環境配慮契約 | なし | 実施 | 実施 | 実施 | 実施 | 実施 |
大学の特性上、電力消費は空調負荷及び実験機器の負荷によるものが主であり、大学のエネルギーマネジメントにおいて、これらの電力負荷を抑制していくことが最も基本的な取り組みになります。延床面積あたりのエネルギー消費量で見たように、電力の環境配慮契約は実施していないものの、広島大学の環境パフォーマンスは良好です。今後、カーボンニュートラル✖️スマートキャンパス5.0宣言にしたがって、広島大学独自の方法でパフォーマンスを飛躍的に高める方法を模索し、実施していきます。
1各大学の環境報告書のデータから比較(2019年度1年間の値)。北海道大学のみ新電力事業者と契約した2018年度も比較に含めている。各大学のキャンパスを全て含むが、附属学校や飛び地にある施設等は含まない。いずれの大学も大学病院を有し、比較に含めている。
2一般家庭のエネルギー消費量の全国平均は年間33.2GJ。環境省の家庭部門CO2排出実態統計調査より。
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/kateico2tokei/2017/result3/detail1/index.html
3環境省の環境配慮契約の締結実績調査でも、対象法人の約70%が実施しているという結果が出ている。国の機関、独立行政法人、国立大学法人等を対象とする2017年度の調査。
http://www.env.go.jp/council/35hairyo-keiyaku/02mat180910.pdf