藤原 章正
先進理工系科学研究科
社会基盤環境工学プログラム
教授
まち、企業、大学で脱炭素型の地域を創造する
カーボンニュートラルにとどまらない、都市公園のような街とキャンパス
自動運転モビリティの研究について、藤原章正先生にお話を伺いました。
モビリティ中心のまちづくり-研究の3つの柱
交通計画を専門としています。言い換えると、「モビリティ中心のまちづくり」の研究、と表現できます。例えば、都市の形を変える、土地利用を変える、安全なまちをつくる、CO2排出を抑制するまちをつくる、高齢者や身障者も自由に外出できるまちにする、などが研究テーマになります。
特に、この10年間くらいは、これら複数のテーマにまたがるものとして、自動運転車を用いたモビリティサービスの研究をしています。このモビリティサービスは、生活圏のニーズに応じて配置した自動運転の電気自動車を無人で走らせ、ユーザーがアプリなどで近隣を走っている車を予約し共同利用する新しい乗り物です。
自動運転モビリティの研究には3つの柱があります。一つ目は、脱ガソリンによりCO2排出ゼロを実現すること、二つ目は、高齢者や認知症のある方、バス路線や鉄道駅がない地域の方などが、誰でもこのモビリティサービスで外出できるようにすること、三つ目は、ライドシェアの仕組みにより、既存の駐車スペースや道路網をなくし、代わってその空間を公園や散歩道のような生活空間として活かすことにより、まち全体を都市公園のような環境につくり変えることです。
(出典)https://www.transformative-mobility.org/assets/publications/ASI_TUMI_SUTP_iNUA_No-9_April-2019.pdf
行動変容-車は個人が所有するものではなくなる
自動運転車の開発は走らせることが目的ではなく、生活様式が変わることを目指すものです。人々が必要とする移動の総走行距離は変わらなくても、自動運転モビリティのサービスが普及すれば、社会全体の車の数は減らせます。各個人が車を所有する必要がなくなるからです。シェアリングエコノミーやサブスクリプションサービスの普及からわかるように、モノを所有することへの人々の関心は薄れてきていて、自動運転モビリティはその点でも親和性が高いものです。
また、生活圏内に快適な公園や緑地がほしいという、都市公園の価値はコロナ禍で急速に高まりました。図らずも、この度のパンデミックが本研究が目指す新しい生活様式の追い風となったのです。
キャンパスと東広島市でのモビリティ研究
東広島市やMONET Technology他と共同で、キャンパスを中心とする東広島市の周辺地域一帯において、自動運転モビリティの実証研究を進めています。このサービスは、貨客混載の自動運転車で送迎と商品の配送を行うMaaS(モビリティ アズ ア サービス)のひとつです。2020年は大学循環バスの配車アプリを開発し、2021年現在はMay Mobility社の自動運転シャトルをキャンパス内限定で運行しています。年内にはキャンパス外でも運転を始める計画です。
May Mobility社の自動運転車は、運転を制御しているAIに特徴があります。ミシガン大学のオルソン教授らが開発したもので、単純な学習だけでなく短時間で多様な予測ができる優れた技術です。広島大学では、道路等インフラ側のモニタリングデータを車載AIと連携させる技術を開発中で、オルソン教授らと共同研究を続けています。
自動運転モールとしてのキャンパス
さらに将来は、下見地区も含めて自動運転車を配備し、学生なら誰でも、アプリで予約し利用できるようにしたいと考えています。スマートキャンパスですから、空き教室の情報とも連動させると良いでしょう。毎朝、アプリに開講教室の情報が届き、それを見て学生は自動運転車に乗り、教室へ向かうようになります。大学全体で教室の割り振りをすれば、空間利用も効率化できます。昼食時にはキッチンカーとして自動運転車が弁当の販売に回ります。歩行者の間を縫うように、自動運転車が安全に走行し、他には、自転車とキックボードが走るだけの”自動運転モール”としてのキャンパスができあがります。駐車場は必要なくなり、代わりに緑地やカフェ、シアターなど、交流のための空間を増やせるのも魅力的だと思います。